対象年齢3才からとされたこの作品は、

『たった5分で泣く子続出!』

『感動』『衝撃的』

こんな謳い文句とともに、

多くのメディアに取り上げられ、

発売から1年で、絵本として異例の

発行部数40万部を超えるベストセラーとなりました。

  

死んでおばけになった母親が、

5歳の息子の前に現れて、

お別れするまでを描いたこの作品は

多くの大人の感動を呼んだ反面、

「子どもに与える本ではない」

「死を軽く扱いすぎ」等の批判意見もAmazonレビューに溢れました。

最近では、日本児童文学7.8月号「感動物語の罠」の特集においても

問題のある絵本であると指摘されています。

 

対象年齢にある3才からの子どもの育ちは、

これから社会性が芽生え、

少しずつ保護者と離れる時間が増える、

そんな年頃です。

振り返ればお母さんやお父さんがいてくれる。

だからこそ、

安心して外の世界に踏み出していくことができるのです。

成長とともに親から離れる時間も距離も増え、

徐々に「依存先」を増やして自分の世界を広げていくのが、

子どもの発達としてのステップと言えます。

 

この作品はその成長段階の、

まだほんの外の世界へ歩き出したばかりの子ども達から、

母親の存在を無理やり引きはがすものです。

帰る場所が不安定なものになった子どもは

安心して外に出ていくことができません。

 

幼児教育学がご専門の神保和子さん日本保育学会会員・日本国際児童図書評議会JBBY会員)は、

ブログ「みどりの緑陰日記」の中で次のように書いています。

 

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幼児期を過ぎれば、子どもたちは同年代の子どもたちと過ごしながら、徐々に親離れし、自立して行きます。その時期に差し掛かる時に不用意な不安感を煽ると、自立を阻害することになりかねません。ママとの突然の分離が怖くて、親離れできなくなってしまうことさえあるのです。

再び、違和感のある絵本を問う

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また作者ののぶみ氏は、作品に込めた思いを次のように語っています。

 

「お前、ママがいなくなったらどうするんだ?」と問いかけます。とても嫌なことだけど、想像させることが、すごく大事。

───現代新書より

 

僕は、子育ての卒業は"自立"だと思っていて。子どもは一人でできるって言わなきゃいけないし、ママはそれを子どもに言わせなきゃいけない。

───QREATORSより

 

幼い子どもたちに死をもって母親の大切さを知らしめる。

それはただの脅しでしかありません。

 

たった5歳の子どもに自立を迫る。

先程ご説明した子どもの発達のステップを考えたら、これがいかに乱暴な考え方かおわかりいただけると思います。

 

この作品は今も時折テレビでも取り上げられ、

図書館では子どもたちの手に届くところに置かれ、

集団での読み聞かせに使用され、

動画サイトでは子ども向けコンテンツとして投稿されています。

 

私達大人は、

幼い子どもたちを守る責任があります。

出版から4年。

今からもう一度考えなければいけません。

 

子どもたちが安心して自由に絵本を手に取れるように。